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この「人口転換期世代」とも呼ばれる世代は毎年200万人以上が生まれ、さらに死亡率の低下という条件が加わることによって、多くが高齢者に達することになった。
現在から2010年までに高齢者に加わる人口転換期世代は、これまでの高齢者と大きく異なる属性をもっている。第一に、きょうだいは多いが子どもが少ないという家族的属性がある。彼ら自身は平均4人程度のきょうだいをもち、親の老後の面倒をみてきたし、長男とその嫁の役割も大きかった。しかし、彼らの子どもは平均2人であり、自らが高齢者になったときに、子どもたちが分担して面倒をみてくれることを期待することは難しい。また、長男が親の面倒をみるという意識にも変化が生じているし、そもそも子どもが減ったために長男がいない確率も高くなっている。第二に、人口転換期世代の特に後半の世代、1940年代以降に生まれた世代は、大都市に集中する割合が高い。1960年代の高度成長期に進学や就職を契機に大都市へ移動し、そこに住み着いた人々が多いのである。第三に、彼らは以前の世代に比べて資産と所得が大きいであろう。わが国の経済発展は個人の資産形成と所得の増大をもたらしたが、特に高度成長を支えた人口転換期世代は、個人差はあるものの、持家と一定以上の貯蓄をもつものの割合が高く、そして公的及び私的な年金を得られる状況にある。
第四に、教育歴が長く、第二次及び第三次産業就業者の割合が高い。1990年の前期高齢者は、男子の場合、中学以下の学歴を持つ者が58%を占め、大学卒は7%に満たなかったが、2010年になると、前者は34%に低下する一方で、後者は17%に上昇する。また、就業経験をみると、1990年の前期高齢者は29%が第一次産業への就業経験があるが、2010年では7%弱に低下する。つまり、彼らは社会システムをどう利用していくかについての情報収集と選択に関して、以前の世代よりも高度な知識や判断力を身につけていると考えられよう。
以上のような高齢者の属性変化は、全国的に進行するものであり、北九州市も例外ではなかろう。一言で言えば、今後増大する高齢者たちは自立意識の高い集団である可能性が大きいということである。彼らが地域社会の活動に自然に参加できる仕組みがあれば、地域社会はより豊かなものになっていくであろう。行政は、町内会や自治会といった既存の組織のみを通じて地域社会と接するのではなく、多様なグループの活動を奨励し、住民が主体的に構築する参加型の地域社会運営を目指していくことを求められている。そのアプローチは、地域特性によって異なる場合がある。これまでの北九州市の地域社会の特性を踏まえつつ、またこれから高齢者に入っていく人々の意識や経験の質を見定めつつ、地域に合ったアプローチを模索することが今後の課題である。北九州市内も地域によって高齢者の特性は異なると考えられるが、一つの典型として大企業の生産現場を経験した退職者が想定できるならば、そうした人々によって形成される地域社会の運営のモデルを考えてみることも一つの方法であると思われる。

 

 

 

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